BtoB SaaSのマーケファネル設計|AIDA から PLG まで使い分け
BtoB SaaS のマーケファネル設計を、AIDA・AARRR・PLG の3モデルで整理。プロダクト特性に応じた選び方と、各ステージの KPI、離脱率改善のコツまで解説します。
BtoB SaaSのマーケファネルは「営業主導かプロダクト主導か」で大きく変わります。自社プロダクトの特性に合わないファネルを選ぶと、施策が空回り します。
「リード獲得はできているが商談化が低い」「無料トライアル登録は増えたが有料転換しない」「ファネルの数字が見えていない」——これらは、自社のビジネスモデルに合ったファネル設計ができていない ことが原因です。
この記事では、3つの代表的なファネルモデル(AIDA、AARRR、PLG)を比較し、選び方と KPI 設計、離脱率改善まで詳細に整理します。
なぜファネル設計が重要か
ファネル設計がないと起きること
- 各ステージのKPIが曖昧で、改善ポイントが見えない
- 営業とマーケのKPIがズレる
- 経営層に説明できない
- 離脱率が高いステージが放置される
- 施策の優先順位がつかない
ファネル設計があると
- 各ステージの数字で改善判断できる
- マーケ・営業・CS が同じ目線で議論
- ROI の計算が可能
- 投資すべきステージが明確
- データドリブンな運営
モデル1:AIDA(伝統型)
Attention → Interest → Desire → Action の4段階。広告・営業中心の伝統的BtoB SaaSに向きます。
AIDA ファネル
| ステージ | 主な施策 | KPI |
|---|---|---|
| Attention | 広告、PR、展示会 | インプレッション、リーチ |
| Interest | LP訪問、資料DL | サイト滞在、DL数 |
| Desire | 商談、提案 | 商談化率 |
| Action | 契約 | 受注金額 |
AIDA が向くプロダクト
- 単価が高い(年間契約数百万円〜)
- 営業主導のクローズが必要
- エンタープライズ向け
- 検討期間が長い(3〜12ヶ月)
- 意思決定者が複数
AIDA のKPI設計例
月間Attention:100,000インプレッション
↓ CTR 2%
月間Interest:2,000サイト訪問
↓ CV率 5%
月間リード:100件
↓ 商談化率 20%
月間Desire(商談):20件
↓ 受注率 30%
月間Action(受注):6件
モデル2:AARRR(グロースハック型)
Acquisition → Activation → Retention → Revenue → Referral の5段階。プロダクト体験を中心に据える モデルで、フリーミアム・無料トライアル提供のSaaSと相性が良い。
AARRR ファネル
| ステージ | 意味 | KPI |
|---|---|---|
| Acquisition | ユーザー獲得 | 新規登録数 |
| Activation | 初期体験完了 | アクティベーション率 |
| Retention | 継続利用 | 28日後の継続率 |
| Revenue | 課金 | 有料転換率、ARPU |
| Referral | 紹介 | NPS、紹介経由登録 |
AARRR が向くプロダクト
- セルフサーブ型
- 月額数千〜数万円
- 無料プラン or 無料トライアルあり
- 個人 or 小チームで意思決定
- プロダクト主導の成長
Activation の KPI 設計例
| 業界 | アクティベーション指標 |
|---|---|
| SaaS(ツール系) | 登録後7日以内にメイン機能を1回使った |
| SaaS(コラボ系) | 登録後14日以内に2人目のメンバーを招待 |
| マーケ自動化 | 登録後30日以内に最初のキャンペーン配信 |
| 分析ツール | 登録後7日以内に最初のレポートを作成 |
| プロジェクト管理 | 登録後7日以内に5タスク以上を作成 |
「最初の体験」を数値化して、その通過率を上げるための施策を考えるのがAARRRの肝です。
AARRR の改善優先順位
- Activation率の改善(最も影響大)
- Retention率の改善
- Acquisition の効率改善
- Revenue(有料転換率)の改善
- Referral の仕組み化
モデル3:PLG(プロダクトレッドグロース)
Product Led Growth。プロダクト自体が主要な獲得・転換チャネル になるモデル。Slack、Notion、Figma などが代表例。
PLG の特徴
- 無料で使えるプロダクトの範囲が広い
- ユーザー自身がプロダクトを社内で広めてくれる
- 有料転換のトリガーは「機能制限」または「人数制限」
- マーケと営業の依存度が低い
- バイラル係数(K Factor)が重要
PLG ファネル
| ステージ | KPI |
|---|---|
| Sign up | 登録数 |
| Activation | TTV(Time To Value) |
| Habit | 週次アクティブ率 |
| Expand | 招待人数、利用機能数 |
| Convert | 有料転換率 |
| Expand revenue | ARPU、シート数 |
PLG が向くプロダクト
- 個人または小チームで意思決定できる
- 軽量で導入が早い
- 無料でも価値を体験できる
- バイラル性(誰かが使うと他の人も使う)
- ネットワーク効果
PLG の主要指標
- TTV(Time To Value):価値を感じるまでの時間。30秒〜数分が目標
- K Factor(バイラル係数):1ユーザーが何人を呼ぶか
- PQL(Product Qualified Lead):プロダクト使用から有料転換候補
- Net Dollar Retention:既存顧客からの収益拡大率
ファネル選定のチェックリスト
以下の質問で、向いているモデルが見えてきます。
| 質問 | 回答 → 推奨モデル |
|---|---|
| 主要な意思決定者は1人?複数? | 1人なら PLG / AARRR、複数なら AIDA |
| 無料で価値を体験させられる? | できるなら PLG / AARRR、できないなら AIDA |
| 単価は月数千円?年数百万? | 前者は PLG、後者は AIDA |
| 営業リソースは潤沢? | あれば AIDA、なければ PLG |
| 検討期間は短い?長い? | 短いなら PLG、長いなら AIDA |
| バイラル性はある? | あれば PLG、なければ AIDA / AARRR |
ハイブリッドモデル
実際の BtoB SaaS は、複数モデルを組み合わせるケースが多い。
- PLG + 営業:個人セルフサーブで導入、エンタープライズは営業対応
- AARRR + ABM:セルフサーブ中心、大口顧客は ABM で個別アプローチ
- AIDA + フリーミアム:営業主導、無料プランで認知獲得
ステージごとの「離脱率」を見る
どのモデルでも、ステージ間の離脱率を可視化 することが第一歩です。
離脱率の目安
| ステージ間 | 目安 |
|---|---|
| 訪問 → 登録 | 5%以上 |
| 登録 → Activation | 30%以上 |
| Activation → 有料転換(PLG) | 5%以上 |
| MQL → 商談化(AIDA) | 10%以上 |
| 商談 → 受注(AIDA) | 20〜30% |
最も離脱が多いステージから順に改善するのが、ファネル最適化の王道です。
離脱率改善の施策例
| 離脱ステージ | 改善施策 |
|---|---|
| 訪問 → 登録 | LP改善、CTA強化、フォーム項目削減 |
| 登録 → Activation | オンボーディング動画、初期チュートリアル |
| Activation → Retention | プッシュ通知、定着メール、サクセスコール |
| Retention → 有料転換 | 機能制限の体験、価格訴求 |
| 商談 → 受注 | 提案資料、リファレンス、トライアル |
競合のファネルも観察する
自社のファネル設計と並行して、競合がどんなファネル設計をしているか も観察しておくと参考になります。
観察すべきポイント
- 無料トライアルの条件(カード登録要 / 不要)
- アクティベーションを促す導線(オンボーディングメール、社内チュートリアル)
- 有料転換時の価格表示の見せ方
- フォームの項目数
- LP の構成・コピー
- 紹介プログラムの有無
競合の新機能リリースや価格改定は、自社ファネルの優位性を見直すシグナル になります。プレスリリース・ニュースの動向は ReAnker のような 競合リリース監視ツール で自動監視できます。月額300円から運用可能。
規模別のファネル設計
スタートアップ初期(〜10名)
- 推奨モデル:AARRR
- 焦点:Acquisition + Activation
- ツール:Google Analytics、MA(軽量)
- KPI:MAU、Activation率
シリーズA以降(10〜100名)
- 推奨モデル:AARRR + ABM
- 焦点:Activation + Revenue + Retention
- ツール:HubSpot、Salesforce、専用 Analytics
- KPI:MRR、Churn、NRR
グロース期以降(100名〜)
- 推奨モデル:PLG + AIDA(エンタープライズ)
- 焦点:全方位
- ツール:Marketo、Segment、Looker
- KPI:ARR、CAC、LTV/CAC、Magic Number
ありがちな失敗
失敗1:自社プロダクトに合わないモデル選定
エンタープライズ向けなのにAARRRを採用 → リード獲得しても受注しない。対策:プロダクト特性を客観的に評価。
失敗2:離脱率を見ていない
「リード増えてます」だけで、どこで詰まっているか分からない。対策:ステージ間離脱率の週次・月次レビュー。
失敗3:複数モデルを混在させる
明確な選定なしに施策をやって混乱。対策:メインモデルを1つ決め、補完的にハイブリッド化。
失敗4:KPIが多すぎる
毎月20指標見て分析麻痺。対策:北極星指標 + 5〜7のサポート指標に絞る。
失敗5:競合動向を見ない
自社ファネルだけ最適化、競合の打ち手を見落とす。対策:競合監視を月次で。
まとめ
- BtoB SaaSのファネルは AIDA / AARRR / PLG の3モデル
- 単価・意思決定者数・無料体験可否で選ぶ
- ステージ間離脱率を必ず可視化
- 競合のファネルも観察対象にする(競合リリース監視ツール で自動化)
- 規模・フェーズに応じたファネル設計が必要
ファネル設計は 「データドリブンな経営の土台」。設計が雑なまま施策を打っても、何が効いて何が効いていないか分かりません。最初の1ヶ月は施策を増やす前に、ファネル設計と KPI 整備に投資する価値があります。
関連:BtoBマーケティングの基礎 / BtoBナーチャリングの設計 / BtoBマーケのKPI設計 / BtoBカスタマーサクセスとマーケの連携
